2009年07月20日
はじめに
ジェイムス・テイラーの『スウィート・ベイビー・ジェイムス』に代表される70年代のシンガー・ソングライター・ブーム辺りを契機として、これまで英米問わず様々なタイプのSSWがそれこそ泡沫の如く現れては消えていった。成功を掴んだ者とシーンに見放された者との差は、音楽性の相違はともかくとして、恐らくはほんの少しの運命の匙加減によるもので、決してそのことが作品の優劣をつける要因となるべきではない。そこでここでは、大々的に売れたり話題になったりした訳ではないが、耳にした者の中に必ず何らかの強い印象を残したSSW達のアルバムを何枚か紹介したいと思う(一部ブックマンと重複するものが出るかも知れないが、その場合はご容赦いただきたい)。
Frank Tovey & The Pyros - Grand Union (1991,ALCB-236)
1991年/国内盤/発売:アルファレコード 販売:日本コロムビア(レコード会社による本人インタヴュー掲載)

- Bad Day In Bow Creek
- When The Victim Takes The Tyrants Place
- Passing Through
- Bethnal Green Tube Disaster
- Cities Of The Plain
- Fallen Angel
- IKB(RIP)
- The Liberty Tree
- One November Morning
- The Great Attractor
2002年に惜しくも他界してしまったフランク・トーヴェイによる、ザ・パイロスを率いての最初のアルバム。彼はミュート・レーベル契約第一号アーティストということで、ファット・ガジェット時代を含めると既にこの時点で相当なキャリアを積んでいた訳だけど、その割にはレーベル・カラーというか、レーベルのイメージ作りの方には余り貢献して来なかったような気がする。どちらかといえばマイペースで、素人同然の状態から徐々に音楽知識を取り入れつつ己の興味の赴くまま曲作りを続ける趣味人、そんな感じだったんじゃないだろうか。本盤も、初期の一風変わった打ち込みサウンドと比べると隔世の感がある作風で、フォーク・ロックからカントリー/ウェスタンの要素まで取り入れたアコースティックな肌触りの楽曲がズラリと並んでいる。歌詞の内容は結構シリアスなものが多いけれど、フランクの飄々とした歌声も相まって不要な暗さは伴っていない。たとえ彼のキャリア上でいうと過渡期にあたる一枚だとしても、僕は好作だと思う。インタビュー形式のライナーノーツも一読の価値ありだ。
John Wesley Harding - Here Come The Groom (1990,WPCP-3434)
1990年/国内盤/ワーナー・パイオニア(解説:川崎大助)

- Here Come The Groom
- Cathy's New Clown
- Spaced Cowgirl
- Scared Of Guns
- You're No Good
- When The Sun Comes Out
- The Devil In Me
- An Audience With You
- Dark Dark Heart
- Same Thing Twice
- Affairs Of The Heart
- Nothing I'd Rather Do
- Things Snowball
- The Red Rose And The Briar
- Bastard Son
ボブ・ディランのアルバムから拝借したと思しき大仰な芸名を名乗るのは、英国エセックス州はヘイスティングス出身、ケンブリッジ大学卒業の秀才SSW。本作は彼にとって、サイアー・レーベル移籍後のフル・アルバムとしては第一作目にあたる記念すべき一枚だ。で、その内容はというと、メジャーという舞台に対する気負いの一切無い、惚れ惚れするほどハートウォーミングな歌の数々。秀才だけあって歌詞の内容はちと難解なれど、そこは訳詩との睨めっこで乗り切りたい。その歌声や作風から、デビュー以来ずっとエルビス・コステロとの近似性を指摘されていた彼。確かに、ちょっとハスキーな声質や微妙にビブラートのかかる唱法は若かりし頃のコステロを想起させるに十分なものがあるし、何より参加メンバーにジ・アトラクションズの人がいる。サウンドが似通ってしまっても止むを得まい。ただ、彼自身は先の指摘を快くは思っていない様だけど、この15曲にはコステロの曲とはまた違った魅力がちゃんと宿っているから問題無かろう。ピーター・ケイスやカースティ・マッコール等ゲスト陣も非常に豪華。
Indio - Big Harvest (1989,D22Y3387)
1989年/国内盤/ポニー・キャニオン(解説:東ひさゆき)

- The Griding Wheel
- Discovery
- Save For The Memory
- Big Harvest
- Hard Sun
- This Golden Land
- The Season Of The Lost
- Stories
- My Eyes
- Ship On A Sea
- Life Lies Down
カナダ出身のSSWが中心となったソロ・プロジェクト的色合いの濃い一枚なので、厳密にいうといわゆる一SSWの作品とはいい難いかも知れない。ただ、曲作りから歌唱までを一人でこなし、インディオというグループ(?)の面子自体も流動的なものだというから、一応これはゴードン・ピーターソンというSSWによる事実上のデビュー・アルバムと呼んで差し支えないのではないか。全11曲から成る本作は、アルバム全体がひとつの大きなうねりとなって聴き手に押し寄せてくるような、正に「大収穫」とのタイトルに相応しい壮大な一枚といえるが、時折、荘厳を演じようとするあまり宗教性を匂わせる歌い上げが鼻につく箇所があるのは気になる。まあこれは新人が故のご愛嬌といったところか。ともあれ、非西欧音楽的ベクトルに特化した楽曲群と、ゴードンの、ボノとスティングの間を行く歌声が凄くマッチしていて、とても新人とは思えないクオリティが実現しているのはスゴイ。あともっとスゴイのはバックを固めたゲスト陣。ジョニ・ミッチェル、ヴァン・ダイク・パークス、ブレンダ・ラッセル、ラリー・クレイン等々、錚々たる名前が並ぶ。
Martin Stephenson And The Daintees - The Boy's Heart (1992,POCD-1091)
1992年/国内盤/ポリドール(解説:中川五郎)

- Big Sky New Light
- The Boy's Heart
- We Can Roll
- Ballad Of The English Rose
- New Skies
- Hollywood Fields
- Sentimental Journey
- Sunday Halo
- 8.30Mowbray Morning
- (Least We've A)Map In The World
- Him,Her And The Moon
- Cab Attack
86年のデビュー以来、イギリスのアコースティック・ロック界最後の良心と呼びたくなる好作をリリースし続けてくれているマーティンが、地元ニューキャッスルにて「基本に返って」録音した、4枚目のスタジオ作品。前作『ソルテーション・ロード』がキャピトル配給、プロデュース/アレンジがピート・アンダーソンということで、この人にしては若干派手目な作風だったのに対し、本作は正に生一本!彼生来のセンシティヴで朴訥とした歌心が、ほとんど何の加工もされないまま各楽曲にレアに刻まれた素晴しい一枚に仕上がっている(決して前作を腐している訳じゃないので誤解なきよう)。今回この成果に多大な貢献を果たしたのは、プロデューサーとして招かれたレニー・ケイ。元パティ・スミス・グループのメンバーであり、かの『ナゲッツ』や『ルバイヤート』の制作者としても知られる彼の目利きぶりが存分に発揮され、アップテンポの曲にはより躍動感を、しっとりとしたナンバーには素のままの表情を、と、実に的確なアプローチが施されている。勿論、マーティンとデインティーズとの息もピッタリで、相変わらずの安心立命サウンドが楽しめる。
Scott Merritt - Violet And Black (1989,VICP-30)
1989年/国内盤/ビクター音楽産業(解説:衣座羔冶)

- Burning Train
- Bell To Bell
- Sweet Accident
- Are You Sending
- Violet And Black
- Radio Home
- Copetown
- Wild Kingdom
- Blue Field
恥ずかしい話、以前I.R.S.レーベルの特集をした時にはその名前すら知らなかったカナダ出身のSSW。ひょんなきっかけで出逢ったこの一枚は、僕に猛省を促すほどの衝撃はもたらさなかったものの、このレーベル内では異色のオーソドックスで清冽な音楽性に、いわば一服の清涼剤を見出すようなアルバムとなった。結構しっかりと歌い上げる部分もありはするものの、全体的には程好く抑制の効いたクリアな音像が心地良い聴後感を与えてくれて好印象。彼自身は70年代末からキャリアをスタートさせた人だそうで、なるほどここで聞かれるブレの無い曲作りの上手さに接すると納得なのだけど、その割には表舞台でスポットを浴びることはこれまで殆ど無かったようだ。実際、このアルバムのリリース後彼は半ば引退状態になってしまったらしく、その点でいうと今回の特集にピッタリなアーティストだといえそう。でも、デビュー以来ずっと地元カナダのオンタリオ州ブラントフォードという町に拠点を置いての活動ぶりには好感が持てるし、小品集然としていながら誠実さの伝わるこの9曲を埋もれさせておくのは勿体無いとも思う。
Bruce Hornsby - Hot House (1995,BVCP-857)
1995年/国内盤/BMGビクター(解説:大友博)

- Spider Fingers
- White Wheeled Limousine
- Walk In The Sun
- The Changes
- The Tango King
- Big Rumble
- Country Doctor
- The Longest Night
- Hot House Ball
- Swing Street
- Cruise Control
- Song B (bonus truck)
今回のラインナップの中では異例なビッグネーム。ザ・レインジを率いて80年代末に「マンドリン・レイン」や「ザ・ウェイ・イット・イズ」等のヒット曲を放ち一躍スターの座に躍り出た彼も、ソロ名義となってからはどちらかというと玄人好みの地味な活動へ落ち着いた印象が強い。勿論相変わらず批評家や熱心なファンの間では高い評価を得続けていたし、実際にリリースされるどのアルバムも聴き応え十分なものばかりだったから、他のヒットメイカーみたいな「落ちぶれ感」は皆無だった。ビル・モンローとチャーリー・パーカーがジャムっている想像図がジャケットにあしらわれた今作も、パット・メセニー等のゲスト・ミュージシャンに象徴的なようにこれまで以上にジャズへの傾倒が著しくなってはいるものの、決して高踏的にはならずアメリカン・ロックの濃密な旨味をギュッと凝縮した素晴しいサウンドを味わわせてくれる。ロック聴くのに専門的な知識は必要無いとは思っているが、彼の音楽に接する時だけは「ああ、俺も楽譜読めたらなあ」とちょっと悔しく感じる。それだけの学究心を煽ってくれる深さが、彼の音楽にはあるということだろう。
Maria Mckee - You Gotta Sin To Get Saved (1993,MVCG-115)
1993年/国内盤/発売:MCAビクター 販売:ビクターエンタテインメント(解説:和田静香)

- I'm Gonna Soothe You
- My Lonely Sad Eyes
- My Girlfriend Among The Outlaws
- Only Once
- I Forgive You
- I Can't Make It Alone
- Precious Time
- The Way Young Lovers Do
- Why Wasn't I More Grateful(When Life Was Sweet)
- You Gotta Sin To Get Saved
ローン・ジャスティスの時代から、決して売れずに無聊をかこつということは無かった彼女。トム・ペティやドン・ヘンリー等先輩同業達からの信頼も厚く、皆から相当可愛がってもらっていた記憶がある。また、年齢的にも若かったこともあり、当初はリスナー間でのアイドル的人気も高かった。ただ彼女自身はそうした周囲の評判に関わらず、かなり早い時期からアメリカン・ルーツ・ミュージックに対する高い志を立てていたようだ。音楽への意外な「野心」を印象付けられたソロ・デビュー作から、およそ4年の歳月を経てリリースされたセカンド、「永遠の罪」との邦題が与えられた本作は、いよいよもって彼女が女版ヴァン・モリソン(某サイトより)の道に足を踏み入れたかのような滋味を感じさせる充実作となった。ジョージ・ドラコリアスをプロデュースに迎え、ジェイホークスやハートブレイカーズのメンバー達のサポートを得た楽曲群に宿るのは、アメリカの今を生きる自立した女としての逞しさだ。そのものズバリな2曲のヴァン・モリソンのカバーもすんなり溶け込んで、同世代の中でも抜きん出た歌い手へと彼女が成長したことを証明している。
Michael Penn - Free For All (1992,BVCP-230)
1992年/国内盤/BMGビクター(解説:中川五郎)

- Long Way Down(Look What The Drug In)
- Free Time
- Coal
- Seen The Doctor
- By The Book
- Draind
- Slipping My Mind
- Strange Season
- Bunker Hill
- Now We're Even
僕も家人も、好き過ぎて逆に誰にも教えたくなかったアーティスト。それじゃ困るのでここで紹介。とにかくその名曲度数の高さでいうとウチでは間違い無くトップテンに入る人。これは彼のセカンド・アルバムである。我が国はともかく英米で大きな評判となったデビュー作にして名盤『マーチ』から3年後に上梓された本作は、これまた一体どうすればこんな曲が書けるのか、と感涙に咽びながらついでにスピーカーの前で座り小便する以外無い傑作となった。感情のヒダを刺激して止まないメロディーと歌声、深読みすればするほど果ての無い文学の森へと彷徨い込んでしまいそうな歌詞、随伴と呼ぶにはあまりに表情豊かなアレンジメンツと、どれをとっても一級品で、僕がもし持ちきれないほどの大金持ちだったらアメリカの彼の自宅まで乗り込んでってお礼にいくらか包んで渡したい位である。俳優ショーン・ペンの兄というバイオグラフィーのせいでデビュー時に余計な色が付けられそうになったものの、彼の才能はそんな雑音に紛れるような軟なものではなかった。何よりここにある楽曲群の輝きが雄弁にそのことを物語っている。傑作、傑作!
Thomas Fersen - Le Jour Du Poisson (2001/原盤1997,WPCR-10965)
2001年(原盤1997年)/国内盤/ワーナーミュージック・ジャパン(解説:ふじもりやすこ)

- Bucephale
- Ma Douceur
- Les Papillons
- Que L'on Est Bete
- Moi Qui Me Croyais Un Saint
- La Blatte
- Pickpocket
- Bijou
- Les Tours D'Horloge
- Qu Trover Des Fleurs Un Lundi Soir Apres Minuit?
- Je Suis Dev'nue La Bonne
本人の端正なルックスはもとより、シャンソンともブルースともつかない独特の音楽性や知性溢れる歌詞世界、更にはアルバム毎のユーモラスなアートワーク等々で、本国フランスでは93年のアルバム・デビュー以来着実な人気と評価を保っているアーティスト、トマ・フェルセン。本盤は彼が97年にリリースしたサード・アルバムの、ようやくの日本国内盤である。我が家では丁度セカンド・アルバムが出た頃に家人が彼を「発見」したのが縁で、これまでずっと彼の作品をフォローし続けているけれど、本当にどのアルバムもハズレが無い。ジャズ・ブルースとロックンロールをブレンドしたファースト、シャンソン・スタイルへ急接近したセカンド、トマ流ポップスのひとまずの確立を見たフォース、それに円熟味すら滲ませるようになった最近作の“Trois Petits Tours”に至るまで、仏音楽事情に疎い僕のようなリスナーでも存分に楽しめる逸品ばかりだ。そして「魚の日」と題された本盤も、いわずもがなの快作。トマの程好い濁声が、イマジネイティヴな11の物語へと軽やかに導いてくれる。雰囲気モノに弱い人も要チェックだ。