2007年03月16日

はじめに

昨年(2006年)のNME「C86」20周年記念イヴェントでの再結成ライヴがドタキャンになってしまい、ファンを大いに悲しませた我らがマイレモ(その代わり、元メロディ・メーカー編集者/現セイント・エチエンヌのメンバーであるボブ・スタンレーがコンパイルした「CD86」には彼等の"Like An Angel"が無事収録された模様)。まあ当の本人達にそこまでやる気が無かったみたいだから正直仕方ないか、という気がしないでもない。同窓会気分で集まるには、辛い思い出の方が先にたってしまうのだろう。彼等もまた爆発的なセールスとは終ぞ無縁なまま、一部の熱心なファン達に見守られながらひっそりと活動を終えたふぐうむちバンドのひとつだった。例によってここでは、いつかどこかで再評価されることを望むべく、彼等のディスコグラフィーを振り返ってみたいと思う。尚、我が家が所有していないディスクに関しては、レビューは控えさせていただいた。

メンバーは以下の通り:

英国はミッドランドのウォルバーハンプトンにて1985年に結成。当初はシャーベット・モンスターズという名前で活動していたが、インディーのドリームワールド・レコーズとの契約を機にバンド名を変更。デビュー曲"Like An Angel"がインディー・チャートの1位を獲得し、一躍カレッジ・ラジオ系リスナー間での知名度が高まる。またこれと時をほぼ同じくして、彼等はかのジョン・ピール・セッションにも参加している。その後、冒頭に書いたNMEによるC86ムーヴメントに1stアルバムのタイトル曲である"Happy Head"が選出される等着実な支持を得つつ、メジャーのクリサリス系列にあったブルー・ギター・レーベルと86年に契約。アルバム・デビューがメジャーからという、非常に恵まれたスタートとなった。

以下、作品リスト:


Happy Head (1986,Blue Guitar)

Happy Head

ファースト・アルバム。当時ザ・スミスとの一連の仕事で頭角を現し始めていたステファン・ストリートがプロデュースを担当。まだまだ荒削りな部分はあれど、ネオ・サイケデリック・ムーヴメントの申し子らしい叙情的な歌メロ、在りし日のマージー・ビートを想起させる端正かつエネルギッシュなギター・サウンド等、その後の彼等の専売特許となるスタイルの萌芽は既にある。若気の至りだろうか、時折思わず勢い余ってパンキッシュになってしまうバックの演奏はむしろ微笑ましい。M2がシングル・カットされ、全英チャートにランク・インするヒットとなった。


Out Of Hand (1987,Sire)

Out Of Hand

シングル"Out Of Hand"に併せてリリースされたミニ・アルバム。人気急上昇中のバンドの熱気を伝えるライヴ録音3曲を含む。複数のプロデューサーが起用されていることからもこの頃のレコード会社の期待の高さが窺える。後のベスト盤のタイトルに採用されたM5は確かに彼等の本質を捉えた名曲のひとつ。尚、CD化されるにあたって本作とファースト・アルバムは2in1ディスクとして再編されており、ここでの8曲はボーナス・トラック扱いとなっている。


World Without End (1988,東芝EMI CP32-5697/解説:山田道成)

World Without End

はじめて日本盤がリリースがされた記念すべきセカンド・アルバム。邦題「終わりなき世界」。僕もここから入った。音楽的にみても、売れ筋系のティム・パーマーをプロデューサーに迎えたことで楽曲にメリハリがつき、よりメインストリームに近づく作風に仕上った。とはいえ決して迎合的ではなく、デヴィッド・ニュートンの硬質なギター・カッティングは益々冴え渡り、ポール・マーシュの歌声もナイーヴ一辺倒でない力強さをモノにしている。1曲目のギターが導くフェイド・インからして相当に格好良い。この時代にしては控えめなエフェクト処理が程好く作品全体に行き届いているので、ネオ・サイケ的鬱屈感よりギター・ポップとしてのピュアネスの方が勝る結果となったのも大成功。代表作、といっていいんじゃないか。尚、M11は日本とアメリカ盤(及びカセット)の、そしてM12以降は日本盤のみのボーナス・トラック。ストーンズの「黒く塗れ!」のカヴァーに、彼等の意外なルーツが垣間見られる。


Laughter (1989,Sire/Reprise)

Laughter

マイレモ史上不滅の名曲M3収録のサード。再び日本盤の発売は見送られたようだ。本作のレコーディング最中にベーシストのトニー・リネハンが脱退、新メンバーとしてマーカス・ウィリアムスが迎えられた。これによりニュートン/リネハンという鉄壁のソングライティング・コンビは解消してしまったが、アルバムを聴く限りでは大きな動揺は見受けられない。前作でほぼ確立した彼等独自の陰影に富んだギター・サウンドに、ブラスやキーボード等複数のゲスト・ミュージシャンを呼び入れて、楽曲毎に多彩さを増した意欲作だ。ギター・バンドとして真っ当な進化を遂げた、胸のすくような作品。だが、時代はマンチェスター・ムーヴメントが英国ロック・シーンを席巻し始める正にターニング・ポイントにあった・・・。


2007年03月15日

Sound... Say Goodbye To Your Standards (1991年,ワーナー・パイオニア WPCP-4347/解説:川崎和哉)

Sound... Say Goodbye To Your Standards

ひとことでいって問題作。マンチェスター・ブームで俄かに活性化した90年代UKロックに触発されたかのようなアッパーなナンバーで幕を開ける本アルバムは、旧来のファンからは大きな戸惑いを持って迎えられた。彼等のセールス・ポイントだったネオ・サイケのサラブレットたる繊細な情緒性はかなり後退し、代わりに骨太でアグレッシヴなバンド・サウンドが前面に押し出された。参考にしたのは往年のブリティッシュ・ロックだろうか。ポール・マーシュは顔に似合わぬシャウトを時折かますし、ギターやその他の楽器組もケレン味すら感じさせる思い切ったフレーズを披露している。何だか無理してるなあ、と感じる部分も若干あれど、彼等の勇気ある進取精神は評価したい。ただ、愛情の欠片も感じられないライナー・ノートだけは何とかならなかったのか。


Ricochet (1992,Sire)

Ricochet

オリジナル・アルバムとしては最後の作品にして、最高傑作(と、しておこう)。前作の冒険を反省してか、ここでは半ば開き直ったかのようなマイレモ流王道ネオ・サイケ・サウンドが復活している。どこまでも美しいメロディ・ラインに心打たれ、時に疾走し時に痙攣する殆ど職人仕事なギターのフレーズにサード以来の愉悦を覚える。ドロドロとした精神の灰汁を極彩色に彩ってまろび出させる「サイケデリック」ではなく、悩める英国青年の心象風景をあくまでも流麗に描き出す為のサイケ。その意味からすると、M2の息を呑むような美しさや、80年代組としてのプライド漲る格好良さのM9など、ネオ・サイケの究極と呼んで差し支えない出来映え。 インナースリーブ開いていきなり目に飛び込んでくるポール・マーシュの打ちひしがれたナイナイ岡村みたいなドアップ写真には別の意味で戦慄を覚えるが。


All The Way (1993, Overground)


Rollercoaster - The Best Of The Mighty Lemon Drops (1997,Chrysalis)


あとがき

エコー&ザ・バニーメンやティアドロップ・エクスプローズ、それにカメレオンズといった面々がドアーズ・チルドレンと呼ばれる中、更にそのフォロワー的な立ち位置から始めざるを得なかった彼等のキャリアは、スタート時こそ順調だったものの、その後は「二番煎じ」というイメージの呪縛から逃れる為の闘いに終始してしまった印象がある。時代が悪かった、といえばそれまでだが、その卓越したソング・ライティング力と、フロントで歌うボーカリストのエキゾチックで魅力的なルックスがもっと上手いこと機能していたら、セールス的にドーンとブレイク・スルー出来ていた可能性は十分あった筈。何より遅れて来た80年代組でありながら、世代交代の進む次のディケイドの初頭まで我々リスナーの心に残る名作を作り続けてくれたのだから、バンドとしてのポテンシャルの高さは証明済みだった。事実、今現役で活動しているエディターズやスティルズといったリバイバリストと呼ばれる人達の醸す叙情性は、エコバニ等よりむしろこのバンドからの影響を感じさせるものだ(この際だからちょっと強引に書いちゃえ)。

素晴しく可愛い名前を持ったバンドが残した僅かなれど愛すべき作品群。その一枚一枚に改めて感謝の念を抱きつつ、本稿を終わりたいと思う。


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