2008年05月25日
はじめに
一昨年(2006年)の5月のある日、グラント・マクレナンが自宅で亡くなったという報せを艦長代理からメールで受け取った時には、勤務中でありながら思わず「嘘やろ!?」と声に出してしまっていた。特定のアーティストにそれ程強い思い入れを抱くタイプの人間ではない筈なのに、彼の場合はどうやら事情が違っていたようだ。自らがそうだと意識せぬまま、これまで彼の存在に、彼の作品に対して、僕の精神のとても繊細な部分がずっと依存していたのだということに気付かされたのは、皮肉にもこの人の次の一手に出会える機会が、永遠に失われた後だった。ザ・ゴー・ビトウィーンズという、オージー産としては類い稀な影響を80年代以降のアコースティック系バンドに与えたグループの、ロバート・フォスターと双璧を成したフロントマンという肩書きにはむしろあまり興味は無く(勿論ゴービトも素晴しかったのだけど)、ただ単純に、どこまでも懐の広い優しいロックを奏でるSSWとしての彼を、僕はこよなく愛していた。
G.W.Mclennan - Watershed (1991, ALCB-287)
1991年/国内盤/発売:アルファ・レコード 販売:日本コロムビア(解説:Kiyoko Saito)

- When Word Gets Around
- Haven't I Been A Fool
- Haunted House
- Stones For You
- Easy Come Easy Go
- Black Mule
- Putting The Wheels Back On
- You Can't Have Everything
- Sally's Revolution
- Broadway Bride
- Just Get That Straight
- Dream About Tomorrow
時代が90年代に切り替わったのを確認するかのようなタイミングで解散を表明したゴービト。その不在にしばらく寂しい思いをさせられていたファンの元へと届けられた、最初のソロ・アルバム。いかにも彼らしい市井感覚に溢れたジャケットだけでも嬉しくなってしまう。ゴービトのラスト・アルバム『16ラヴァーズ・レーン』の延長線上を期待して臨んだら軽くそれを裏切ってくれるコンテンポラリーな仕上がり。打ち込みサウンドへの抵抗感もそれほど無かったようで、冒険とは言わないまでもの茶目っ気たっぷりなダンスものまで披露している。自らウォーターシェッド=転機を象徴する一曲と自負するM1に始まって、夜のしじまの中で恋人への想いをひっそりと確かめるかのようなM4、彼流ハード・ロックの後に(笑)を付けたくなるM9、パートナーたるアマンダ・ブラウンのヴァイオリンが映えるM10等、前身グループの幻影を追わないマイペースぶりが彼らしい明るさとして音に転化した、危な気ゼロのソロ・デビュー盤となった。
G.W.Mclennan - Fireboy (1993, TKCB-70095)
1993年/国内盤/徳間ジャパン(解説:宮子和眞)

- Lightning Fires
- Surround Me
- One Million Miles From Here
- The Dark Side Of Town
- Things Will Change
- The Pawnbroker
- When Side Are You On?
- Fingers
- Signs Of Life
- The Day My Eyes Came Back
- Bathe(In The Water)
- When I Close My Eyes
- Riddle In The Rain
以前にも書いたけれど、フィッシュマンズの『ネオ・ヤンキーズ・ホリデイ』と並んで、僕に93年の夏をなんとか乗り越えさせてくれたかけがえの無い一枚。この年の暑かった頃は個人的に本当にタフだった時期で、家に帰ると誇張無しにこの2枚だけを取っ替え引っ換え順番に聴きながら、その日一日をやり過ごす毎日だったので、もう音の隅々までが皮膚の一部のような感覚になってしまっている。後年になって改めて、世評とはまるで関係無いところで超個人的な名盤というものが存在することを我が身をもって実感した作品。なので、どうしてもこのアルバムについては客観的になれない。ただ、いつになく荒々しいサウンドと前作には無かった濃い苦味を滲ませたグラントの歌声に、掠める程度には僕の境遇/心境がシンクロしたのかも、という思いは今もある。アマンダ・ブラウンも最早参加しておらず、真の意味で独りぼっちになった大人のロッカーの、悲壮なまでの芯の強さが光る「漢」の一枚だ。
Grant Mclennan - Horsebreaker Star (1994, TKCB-70492)
1994年/国内盤/徳間ジャパン(解説:伊藤英嗣、渡辺亨)

- Disc One :
- Simone&Perry
- Ice In Heaven
- What Went Wrong
- Race Day Rag
- Don't You Cry For Me No More
- Put You Down
- Late Afternoon In Early August
- Coming Up For Air
- Ballad Of Easy Rider
- Open Invitation
- Open My Eyes
- From My Lips
- Disc Two :
- Dropping You
- Hot Water
- Keep My Word
- Do Your Own Thing
- That's That
- If I Was A Girl
- Head Over Heels
- Girl In A Beret
- All Her Songs
- No Peace In The Palace
- I'll Call You Wild
- Horsebreaker Star
穏やかでたおやかなタイム感に包まれたソロ3作目にして初の2枚組。生粋のアメリカのミュージシャンと見紛うような堂に入ったカントリー・ロックやフォーク・ソングがずらっと並ぶ。最初聴いた時は一体何事かとかなり戸惑った。ここには1stにあったユーモラスな雰囲気も2ndのモロ私生活反映してます的なディープなメランコリアも無い。全24曲、まるで鋳型に流し込んだの如き正調節のUSルーツ継承ソング集。案の定アメリカ録音。ライナーには「アメリカン・ミュージックに対する憧憬が生み出した架空のアメリカン・ロック集」とあるが、こうまで正面切ってそれをやられると俺は彼の何を聴いてきたのか正直疑問に思ってしまう。恐らくこの時期、彼の中で何かが解決し、新たなる局面に向けて自信の持てる開き直りへと踏み込める動機が生じていたのだろう。駄曲がひとつとして無いのが唯一の救いだが、歌心の在り処を憧れの国の古典のみに頼った安易さは個人的に今もって悔やまれる。ソロ作の中でも評価の高い作品なれど、僕は未だに馴染めないアルバムだ。「イージーライダーのバラード」のカヴァー収録。
Grant Mclennan - In Your Bright Ray (1997, TKCB-71159)
1997年/国内盤/徳間ジャパン(解説:渡辺亨)

- In Your Bright Ray
- Cave In
- One Plus One
- Sea Breeze
- Malibu 69
- Who Said Love Was Dead
- Room For Skin
- All Them Pretty Angels
- Comet Scar
- Down Here
- Lamp By Lamp
- Do You See The Lights?
- The Prade Of Shadows
最高傑作。前作で改めて露になったUSルーツ志向と、ポスト・パンク世代特有の俯き加減な情緒性とが絶妙なブレンド加減で融合した理想的なエンド・プロダクトが、正に「これしかない!」といった感じのボーカル・ラインで縁取られていく。むしろ『16ラヴァーズ・レーン』から直接本作を続けて聴いた方が彼本来の魅力がよりよく理解出来るのではないか、とさえ思ってしまう。ポップのピュアネスがアダルトなまろやかさに溶け込んで、ポスト・ロックの領域まで侵食しかねないオーガニックなサウンド・スケープへと結実した。一遍の小説にも匹敵するドラマを伴った素晴しいソング・ブックだ。ゴービトも再結成して、さあここからが彼の第二の黄金時代だ、と胸ときめかせていたのだけど・・・。
最後に
ネオアコ文脈でゴー・ビトウィーンズのアルバムだけはフォローしたよでもまだ聴いてないけど、という人にも、ゴービト自体地味だったしあまつさえそこにいた人のソロなんてね・・・という人にも、彼の作品は何某か訴えかけるものがあると強く思う。この先もきっとロック史に大きく名前の載ることのない日陰の存在なのかも知れないけれど、破天荒なロック・ライフを送った訳でもないどちらかというとオーディナリーな感受性の人が、それでも内包する才能の瑞々しい息遣いに常日頃から自覚的だったおかげで手にする事の叶った、身の程を知り尽くした上での感動が上記の4枚にはある。日々生きていく上で実際に糧となるのは、案外こうした音だったりするものだ。機会があれば是非、その一端に触れてみて欲しい。