2005年04月14日
はじめに
80年代以降、UK/US双方で台頭したインディペンデント・レーベルの数々は、パンク・ロックの掲げた自主独立の精神を継承しながらも、その一方でリスナー達にとって大変便利なガイドラインとして機能し、結果としてムラ意識の若干高めな好事家を多数生み出す事となった。そのせいか我が国の洋楽ファンの中には、いわゆる「レーベル買い」をする人が少なくない。名も知らぬアーティストの作品でも、お気に入りのレーベルからのリリースとなれば、とりあえず手に取ってレジに向かってしまう。それ位、各々のレーベル・カラーに寄せるファンの信頼は厚い。これをして、趣味性に終始した非生産的な行為との誹りは当然出て来るだろうが、ファンの立場からすると自分の箱庭世界に他人からとやかく言われる筋合いは無い、というのが実際のところ。僕もその恩恵を身勝手に授かって来た一人なので、当時好きだったレーベルの数々がシーンの活性化にどのような形で貢献したのかについてはあまり興味が湧かないし、今更検証してみようとも思わない。
ただ、個人的に愛着のあったレーベルが、さしたる再評価も得られないまま忘れ去られ、歴史の彼方に埋没していく様を指をくわえて見ているのは正直辛い。そこで今回、僕が一時期入れ込んで、未だに愛してやまないI.R.S.レーベルの作品の中から何枚かを採り上げて、誰の役に立つかわからない備忘録にしてみようと思う。
2004年04月14日
I.R.S.レーベルとは
"International Record Syndicate"の略称。この頭文字は、International Revenue Service(アメリカ国税局)の意味でもある。有名なトレード・マークの黒眼鏡の男は、IRSMANというのが国税局員の略称であることに由来したもの。1979年、当時かのポリスのマネージャーを務めていたマイルス・コープランド(ポリスのドラマー、スチュワート・コープランドの実兄)が、LAのA&Mレコード社内の一室を借りてスタートさせたインディー・レーベルの先駆的存在。当初はバズコックスやフォールといったイギリス勢をアメリカ国内に紹介していたが、その後オインゴ・ボインゴやクランプス、ウォール・オブ・ヴードゥ等本国の新人勢と共に契約したLAのガールズ・グループ、GO-GO'Sのデビュー・アルバムが82年3月に全米No.1のヒットを飛ばしたことで、一躍世界的な知名度を獲得。80'sインディー・ムーヴメントの立役者として、カレッジ・チャートのメインストリームをひた走った。
作品リスト
それでは、愛すべき所属アーティスト達と、その作品群(後期ばかりだけどな)。
- Every Dog Has His Day / Let's Active (1989)
- Curtains / The Balancing Act (1989)
- Mosquitos / Stan Ridgway (1989)
- No Warning / Dave Wakeling (1991)
- Eden Alley / Timbuk3 (1988)
- Show Of Hands / Show Of Hands (1989)
- Dead Letter Office / R.E.M. (1987)
- Big Boss Sounds / Reckless Sleepers (1988)
- The Third Party / Jules Shear (1989)
- World Of His Own / Jools Holland (1990)
- Laughing At The Pieces / Doctor & The Medics (1986)
解説
Every Dog Has His Day / Let's Active (1989)
初期R.E.M.やスザンヌ・ヴェガのプロデューサーとして知られるミッチ・イースター(一方の雄にドン・ディクソンがいる)が率いたハード・ポップ・バンドの3rdアルバム。親しみ易い60's風味のメロディ、音楽的含蓄の深さに衒いを滲ませない快活な演奏(レンジもかなり広め)、個人的感情の昂ぶりより面子間での協調性を優先した男女混合のボーカル&ハーモニー。心地良くも随所に光る鋭いポップスのセンスが何とも心憎い一枚。
Curtains / The Balancing Act (1989)
「バンド」というより「グループ」と呼んであげた方がしっくり来るメンバー達の佇まい同様に、様々な音楽のエッセンスが人肌の温もりでもって多層的に編み込まれた職人芸レベルのアコースティック・サウンド。以前にも書いたが、ルーツという名の足枷で知恵の輪遊びに嵩じてしまうような頓知の妙は未だ新鮮に耳に響く。
Mosquitos / Stan Ridgway (1989)
「レイモンド・チャンドラーがパルプ・フィクションの世界でやったことをモダン・ポップの世界で成し遂げた」だの、「デイモン・ラニアンとウィリアム・スタインベックの中間を行く小品」だの、はたまた「ベルトルト・ブレヒトがクルト・ワイルと組んでした仕事に対するアメリカからの返答」だの、とにかく引き合いに出されて語られる著名人の多さでは世界記録級なのではないかと思えるほど多面的な評価を得ている元ウォール・オブ・ヴードゥーのボーカリストによる、ソロ2作目。世間での知名度は前作「ビッグ・ビート」に、評価の高さではこの次のアルバム「パーティーボール」にそれぞれ一歩譲るかも知れないが、個人的にはこれが一番好き。冷徹な観察眼が冴え渡る映画のワンシーンのようなエピソードの羅列、それらを余さず伝える彼自身の些かエキセントリックな声色、「モダン・ポップ」以外に適当な呼称が見当たらない癖のある楽曲群。前作では若干ユーロ・ビートっぽい部分も感じさせたエレクトロニクスの使い方が俄然上達している点にも注目だ。
No Warning / Dave Wakeling (1991)
元イングリッシュ・ビート、ジェネラル・パブリックのボーカリストのソロ・デビュー・アルバム。マーク・ゴールデンバーグという売れ線系をプロデューサーに迎え、徹底してポップで聴き易い小品集に仕上げて来た。ジョン・ヒューズ監督の映画「シーズ・ハビング・ア・ベイビー」同名主題歌も収録。これで売れなきゃ世間が悪い。ツー・トーン・ブームの中心的存在であったバンドのボーカリストが、キャリアの重みを振り払い他愛の無いラブ・アフェアに一喜一憂。
Eden Alley / Timbuk3 (1988)
レーベルの看板アーティストだった夫婦デュオの2作目。ブルースやカントリーといった土臭いルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、3人目のメンバーであるチープなリズムボックス"Jambox"をバックに演奏される彼等の音楽は、ルーティーンに追われる現代人の耳を捉えて余りある程刺激的。スノビズムに抵触しない洗練された知性が、世間に対するシニカルな認識はその程度さえ弁えておけば十二分に明日への活力になる事を教えてくれる。「エデン横丁で僕等は育った/そこでは一晩中音楽がかかってて/大人達が天国への祈りを捧げてる間/子供達は物陰で愛し合うんだ」―こういった世界観に惹かれる人ならまず間違い無く彼等の音楽の虜になれるだろう。ちなみに現在この二人は離婚していて、それぞれ別の音楽キャリアを歩んでいるらしい。何とも残念な話だ。より戻してくんないかな。
Show Of Hands / Show Of Hands (1989)
男女混成コンテンポラリー・フォーク・トリオのデビュー作。かの名曲「ファースト・カー」でトレイシー・チャップマンを一躍1988年時の人に仕立て上げたデビッド・カーシェンバウムがプロデュースを手掛けている。シンプルながらも決して単調にならないフォーク・ソング集。昔でいうプロテスト・ソングに近いノリがある。ストイックで、どこか宗教的な趣。メンバー3人が3人とも曲を書けるというのも強みだろうか。微熱とかいって変な女心に目覚める以前のスザンヌ・ヴェガやソロ・デビュー直後のマリア・マッキーが好きな人、或いはブルー・エアロプレインズのジェラルドがもしポエトリー・リーディング・スタイルじゃなくて普通の歌い手さんだったらどんな感じだったろう、とか想像したことがある人などにオススメだ。いるのかどうかは知らないが。
Dead Letter Office / R.E.M. (1987)
今や押しも押されぬVIPとしてロック・シーンに君臨する彼等も、スタートはこのレーベルだったのだ。南部アセンズで珍妙なバーズ風フォーク・ロックを奏でていた時代から思えば、随分遠くまで来たものである。本作品は、当時における最新作「ライフス・リッチ・ページェント」までの未発表曲や別テイクを集めたものに、デビュー・ミニ・アルバム「クロニック・タウン」の全5曲を加えた編集盤(「クロニック・タウン」といえば、以前も書いたかも知れないけど、コレのビニール盤を大学のセンター試験2日目をブッチして岡山駅近くの奉還町のとあるビルの2階で開催されてたレコードのワゴンセールに学生服姿で馳せ参じた時にゲットしたことを今でも思い出す。ちなみに一緒に買ったのはジョイ・ディヴィジョンの「ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート」国内プレスの12インチ盤だった)。 興味深いのは、オリジナルに混ざってさり気なく挿入されているカバー・バージョン。ルー・リード(ベルベッツ時代のを含む)が3曲、エアロスミスが1曲。ピーター・バックの弁によると単純に好きだしライヴで盛り上がるから、というのが動機らしい。この辺り、天晴なマイペースぶりである。
収録されているのは全部で20曲。マイケル・スタイプが、ネイティヴですら歌詞の聴き取りが困難な位モゴモゴしたボーカル・スタイルの頃の録音なので詳細な歌詞の内容は判らないけれども、この当時の声色や節回しからして既にR.E.M.特有の幽玄な音の感触が備わっている点は流石というべきだろう。
Big Boss Sounds / Reckless Sleepers (1988)
シンディー・ローパーの「オール・スルー・ザ・ナイト」やバングルスの「ホワット・シー・ウォンツ」といったヒット曲の作者として知られるジュールス・シアーが、満を持して結成したポップ・ロック・バンドのファースト・アルバム。この人は、「第2のイーグルス」との呼び声もあったファンキー・キングスの一員として1976年に世に出て以降、自身のソロや様々なプロジェクトを通じて業界内で相当なキャリアを積んで来たベテランさんで、どちらかというとそれまでスポット・ライトの当たらない不遇な時期の方が長かったというのに、いざフタを開けてみると見事なまでに深読み無用の開放的な音に仕上げて来る所がすごい。勢い余って少々ダサくなってしまった部分も含めて、アルバム全体に彼の憎めないキャラクターが滲み出ている点にも好感が持てる。かつてはジャクソン・ブラウンとも比較されたことのある良質な西海岸系SSWの持ち味に、往年のエレキ・グループ的要素やR&Bテイストがまろやかにブレンドされた大人のリラックス・サウンド。後にロジャー・マッギンやトミー・コンウェル等がカバーする「イフ・ウィー・ネバー・ミート・アゲイン」収録。
The Third Party / Jules Shear (1989)
で、バンドを離れて久しぶりに個人名義でリリースした本作は、ザ・チャーチのギタリスト、マーティ・ウィルソン・パイパーと二人きりで録音に臨んだシンプル極まりない歌モノ集。一聴してまずそのデモ・テープ然とした佇まいにたじろいでしまう(シンセはおろか、ベースやドラムすら使用されていないのだ)が、これはジュールス自身の、近年の作り込み過ぎなきらいのあるレコード群に対するアンチ意識を反映してのことらしい。三度の飯より曲作りが好きな彼にとっては、自らのシンガー/ソングライターとしての資質を見直す原点回帰の意味合いも含まれるだろう。のっけから彼特有の粘っこいボーカルとマーティのストロークとが絶妙な絡み合いを見せてくれるが、特に7曲目から後半にかけてのテンションの高まりはちょっとした聴き物だ。ただ、「秋の風がよく似合うアコースティック・サウンドです。」という帯の文句は何とかならんかったのか。誤解を招くぞ。
World Of His Own / Jools Holland (1990)
海の向こうでは今や元スクイーズのキーボーディストとしてより音楽番組の名ホストとしての方が名前の通りがいい個性派アーティストの手によるソロ第一作目。こっちのジュールスさんは、いかにも鍵盤奏者らしい一歩退いた場所からの俯瞰的視点を上手くオムニバス要素に持ち込んで、ジャンル問わずのアダルト・パーティ・アルバムを仕上げて来た。ビッグ・バンド、ジャンプ・ブルース、ジャズ、ロカビリー、ソウル、映画のサントラ、正しく何でもござれの音世界。縦横無尽にルーツを跨ぎながらも、浮き足立った部分は微塵も無し。何よりその引出しの多さのおかげで、対象年齢の幅がやたら広くなっているのが素晴らしい。スクイーズの他メンバーのみならず、あのスティングまで引っ張り出して共演しているのには驚かされたが、ゲストの皆さん方も大変リラックスしてジュールス・ワールドを楽しんだ模様。流石は名ホストだけあってその辺りの目配せにも抜かりは無いといったところか。50年代風のスリーブ・デザインも何気にステキだ。
Laughing At The Pieces / Doctor & The Medics (1986)
ド派手なコスプレ・ファッションや過激なライブ・パフォーマンス、それに扇動的ともとれる言動によってロンドンのDJシーンから口コミで人気に火が付いた似非グリッター・ガレージ・ポップ・ロック・グループによる、4週連続全英No.1に輝いたシングル「スピリット・イン・ザ・スカイ」収録のファースト・アルバム。主宰のザ・ドクターという人は、そのキワモノ的メイクからは想像もつかない知性と狡猾さとを兼ね備えた才人で、インタビュー等での発言もいちいち揮っていた憶えがあるが、それに説得力を持たせるべき肝心の音楽の方に不安があった。実際今このアルバムを聴き返しても、印象に残るのはせいぜい前述のヒット曲や冒頭曲くらいで、後はやたらとボトムの浅い淡白な演奏ばかり。当時のヒット・グループにしてはシンセに頼らないバンド・サウンド一本で勝負している点は評価に値するといえなくもないが、正直今となっては資料的価値しか見出せない。
KICKIN' BACK TO THE FUTUREシリーズ
R.E.M.やティムバック3等のチャート・ブレイクによって、日本の洋楽ファンの間におけるレーベル認知度もかなり高まっていた87年に、国内独自の企画編集で用意されたオムニバス盤。3ヶ月のタイムラグを置いてUSA編とUK編とがそれぞれリリースされた。現時点では残念ながら廃盤状態だが、中古CDショップやレンタル屋等のワゴンセールとかをチェックしてみると結構な安価で見つかる可能性はある。ちなみにライナーノーツを執筆しているのはどちらも天辰保文氏。USA編には短いながらも彼によるマイルス・コープランドへのインタビューも掲載されている。
- KICKIN' BACK TO THE FUTURE / I.R.S.Compilation from U.S.A.
- KICKIN' BACK TO THE FUTURE / I.R.S.Compilation from U.K.
- KICKIN' BACK TO THE FUTURE / I.R.S.Compilation from 艦長
解説
KICKIN' BACK TO THE FUTURE / I.R.S.Compilation from U.S.A.
- FALL ON ME / R.E.M.
- RADIO FREE EUROPE / R.E.M.
- AGES OF YOU / R.E.M.
- TRUE / CONCRETE BLONDE
- STILL IN HOLLYWOOD / CONCRETE BLONDE
- MEXICAN RADIO / WALL OF VOODOO
- DO IT AGAIN / WALL OF VOODOO
- CAMOUFLAGE / STAN RIDGWAY
- WATER PART / LET'S ACTIVE
- IN LITTLE WAYS / LET'S ACTIVE
- THE FUTURE'S SO BRIGHT, I GOTTA WEAR SHADES / TIMBACK3
- LIFE IS HARD / TIMBACK3
コンクリート・ブロンドは紅一点のボーカリスト、ジャネット・ナポリターノを擁する3ピース・バンド。86年暮デビュー。骨太のバンド・サウンドを身上としながらも、ジャネット嬢のしなやかな感性を伝える歌心にも定評あった。ウォール・オブ・ヴードゥーはスタン・リッジウェイが在籍したニュー・ウェイヴ・ポップ・グループ。捩れた知性が繰り広げるシンセ・サウンド。
KICKIN' BACK TO THE FUTURE / I.R.S.Compilation from U.K.
- SPIRIT OF '76 (Extended Version) / THE ALARM
- 68GUNS(Live Version) / THE ALARM
- SPIRIT IN THE SKY / DOCTOR & THE MEDICS
- WATERLOO / DOCTOR & THE MEDICS
- THE EDGE OF TOWN / THE TRUTH
- SPREAD A LITTLE SUNSHINE / THE TRUTH
- WHITE NIGHT / TORCH SONG
- DON'T LOOK NOW (Extend Mix) / TORCH SONG
- LET GO / INTIMATE STRANGERS
- RAISE THE DRAGON / INTIMATE STRANGERS
アラームはウェールズ出身の4人組。初期U2の青臭い部分のみを継承した青春ロック。ハッキリとダサ目。トゥルースは当時レーベルの注目株だった5人組。R&Bを基調にしたポップ・ロックで、非常に聴き易い。ただアルバムの邦題が「愛の魔力」だったのには正直萎えた。トーチ・ソングは、かのウィリアム・オービットが女性ボーカルを迎えて取り組んだ暫定的プロジェクト。雰囲気モノにも実験モノにも属さない微妙なポップス。流石にこのペラペラなシンセ・アレンジは時代を感じさせる。インティメイト・ストレンジャーズは、レイズ・ザ・ドラゴンというバンドで同レーベルからデビューしていたデュオによる仕切直し。アコースティックな溌剌ソングに、ひとさじのユーモアを加味。
おまけ: KICKIN' BACK TO THE FUTURE / I.R.S.Compilation from 艦長
- GENERATOR / THE BALANCING ACT
- CAN YOU GET TO THAT / THE BALANCING ACT
- LIKE ANIMALS / SHOW OF HANDS
- RETRIBUTION / SHOW OF HANDS
- LONLEY TOWN / STAN RIDGWAY
- GOIN'SOUTHBOUND / STAN RIDGWAY
- THE GIRL'S ON FIRE / JULES SHEAR
- BIGGY WIGGY / JOOLS HOLLAND
- TARZAN WAS A BLUESMAN / TIMBACK3
- WELCOME TO THE HUMAN RACE / TIMBACK3
- CRAZY / R.E.M.
- GARDENING AT NIGHT / R.E.M.
好きなアルバムからまんべんなく集めたつもり。それにしても12曲目、邦題が「夜の庭師」ってステキ過ぎる。
あとがき: 僕にとってのI.R.S.
僕がこのレーベルに対して抱くイメージは、「門戸が広く、福利厚生も充実している芸人組合」といったもの。面白そうな音楽ならどんなジャンルのものでも取り込んでいこうという会社自体のフレキシブルな姿勢はいうに及ばず(「ギター・スピーク」でメタル勢を迎え入れた時にも驚かされた)、所属しているアーティスト各々が、結構スゴイことやってんのにまるで居丈高にならない「悠々自適マイライフ」な雰囲気を漂わせていたのがとても魅力的だったのだ。生き馬の目を抜く音楽業界の、しかも売らんかな主義の汚染レベルがピークに達していた80年代という混迷期を逞しくサバイブして来たその姿は、どんな弊害があろうとも真に優れたアートは死なないぜ、という希望の象徴にすら僕には思えた。現在ではリスナー間の嗜好の更なる細分化に伴う形で一応の役割を終えている本レーベルだが、未だに上記の作品群を聴く度に新鮮な驚きと発見がある。若かりし頃の僕に、ユニークで素晴らしい音楽を次々と紹介してくれたI.R.S.レーベル。最後に改めて、感謝の気持ちを表しておきたいと思う。ありがとう、黒眼鏡。